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ビジネスコラム |
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新保 豊氏 日本総合研究所 研究事業本部 理事・主席研究員(通信メディア・ハイテク戦略ク ラスター長) |
バブル崩壊以降、日本の国際競争力の低下が叫ばれ、さまざまなところで俎上(そじょう)に載っている。政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)がこのほど(4月25日)正式決定した「成長力加速プログラム」でも、国際競争力強化が大きな目玉になっている。
安倍政権の成長戦略の中核政策となる同プログラムは、1人当たり労働生産性の伸び率を5年間で1.5倍に引き上げるという目標を設定。そのため、最先端技術の創造や教育・研究の向上など、国際競争力強化に向けた新たな施策を盛り込むとともに、成長力の底上げにもつながるIT革新とサービス産業の生産性向上、地域・中小企業の活性化などに重点的に取り組むとしている。これらの政策のバックボーンは詰まるところ、「生産性を向上させれば、国際競争力も強化され、ひいては(あるいはその両方により)経済成長を押し上げる」というロジックに集約されよう。
国際競争力をめぐる懸念・誤解・妄想
気鋭の経済学者である米プリンストン大学教授のポール・クルーグマンは、1990年代半ばに著書「良い経済学 悪い経済学」(日本経済新聞社)などで、「競争力に対する懸念は、実証的にみてほとんど根拠がない。国の競争力と企業の競争力を同じように考えるべきではない」「国の政策を考える際には、競争力は意味のない言葉だ。競争力という妄想にとらわれるのは、間違いでもあるし、危険でもある」と指摘し、大きな反響を呼んだ。
しかし、日本でも冒頭のような議論の場において、いまだに「国際競争力」という言葉が定義を示されないまま一人歩きしており、国と企業が明確に区別されることは驚くほど少ない。しかも、「国の競争力は生産性で決まる」「強い国際競争力が経済成長をもたらす」といった仮説が、検証することなく信じられている。成長力加速プログラムの一部である「ICT国際競争力懇談会」のワーキンググループや内閣官房関連など、私がかかわってきたいくつかの政府の委員会や研究会でも、勘違いをしているのではないかと思える議員や官僚、学者、企業幹部が少なくなかった。
現実には、「生産性」と「国際競争力」と「経済成長」の関係は、そう単純ではない。「生産性」を引き上げることは、デフレ下では逆の効果をもたらしかねない。また、「国際競争力」については、国の話と企業の話が混在しており、必ずしも「経済成長」に大きく寄与するものではない。誤解や思い込みに基づく議論は、不毛であるばかりか、時には有害でさえある。今回はそのことを明らかにしたい。
貿易は「勝ち負け」ではない
国レベルで国際競争力を計る基準と言えば、単純に考えれば、輸入以上に輸出できる能力、すなわち貿易収支(=輸出と輸入の差)ということになる。仮にMBAの知識しかなければ、これを企業でいう当期損益とみなすのかもしれない。
しかし、クルーグマンも指摘するように、国は企業と違い、貿易を通じて「勝つか負けるか」の競争をしているわけではない。国家間の貿易は、「比較優位」に基づく、互いを利する「交換」だ。各国は自国内の他の製品や産物に比べて効率よく生産できる製品・産物(比較優位財)を輸出し、それ以外は外国から輸入することで、それぞれより多くの製品・産物を消費することができる。
例えば、日本が得意の自動車やIT機器を輸出する一方、ガーナ共和国からはカカオ豆、中国から衣料品、豪州からは牛肉やワインを輸入する。国の問題を消費者個人に置き換えるのは正確さを欠くが、輸入品を衣食住に関するものと考えれば分かりやすいかもしれない。日本が輸出するものばかりでは、あなたの生活は成り立たないこと、輸入消費財のおかげで、生活が格段に豊かになっていることが実感できるはずだ。
言い換えると、労働力など生産資源に限りがあるなかで、各国がそれぞれの得意分野に特化して交易するほうが、自国だけですべてを生産するよりも効率的なのだ。貿易を通じた国際分業が双方の国を豊かにすることは、経済学の原理である。
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