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ビジネスコラム

M&A新時代のRandom Talk

佐山 展生氏 一橋大大学院国際企業戦略研究科教授

佐山 展生氏

一橋大大学院国際企業戦略研究科教授

第4回「認識薄いM&Aにおける利益相反問題」(2006/10/26)

 日本の再生M&Aにおいては、主力銀行の関連証券会社が債務者のM&Aアドバイザーになるケースが多かった。およそ2年前の例で言えば、産業再生機構が出資する前、ダイエーのアドバイザーを主力3行の関連証券会社が務めていた。カネボウも主力銀行の関連証券がアドバイザーであった。

“利害関係者”がアドバイザーを務める矛盾

 これら銀行系証券会社のM&Aチームの力量は評価するとしても、親銀行が債務者の主力取引行であるという構造上、親銀行の利益よりも依頼元の利益を優先できるかというと、それは困難と言わざるを得ない。

 銀行系証券会社は、親会社である銀行とファイアウォールがあるという。しかし、子会社である証券会社の人事権は、実質的に親銀行が持っているケースもあるのではないか。そのような状況で、本当に依頼元である債務者の利益を優先し、債権者である親銀行と対峙(たいじ)できるのだろうか。それは極めて困難な仕事ではないだろうか。

 最近の例で言えば、フタタのケース。コナカのメーンバンクでAOKIホールディングスとの取引の薄い銀行がフタタのアドバイザーを務め、その意見をもとにフタタの経営陣は意思決定したとされる。銀行がメーン先を差し置き取引のほとんどない企業をサポートする意見を言うはずがない。日本では、まだ、このようなメーン銀行との利益相反問題に極めて疎いと言わざるを得ない。

 その他、外資系投資銀行の中には、売り手側である売却対象の企業の株主でありながら、買い手側企業のアドバイザーをしていたりすることもある。これでは、買い手側のアドバイザーであるにもかかわらず、買収金額が高い方がその投資銀行の収入が増えることになってしまう。

M&Aに仲介はなじまない

 一昔前の証券会社のM&Aは不動産売買のように仲介が普通であったが、バブル崩壊後M&Aが本格化するにつれ、仲介ではなく、売り手か買い手のどちらかの側に立ってアドバイスをするようになった。売り手は買収金額が高い方がよく、買い手は安い方がいい。売り手はM&A後、何か問題があっても受け取ったお金を返却したくないし、買い手は何か問題があれば売り手に補償を請求したい。M&Aの契約書の各条項で売り手と買い手の利益は対立する。また、売り手ができるだけいい条件で売却したくても、仲介だと買い手候補はひとつしかなく選択の余地はないし、売り手側の交渉力も弱くなってしまう。

 しかし、最近はまた、金融機関が売り手と買い手の間に立って仲介をするケースが増えてきたと言われる。この仲介自体が売り手側の希望の場合は許容できるが、取引銀行が貸し金のあることを背景に強要していたなら、それは問題である。借入金過多により売却せざるを得ない企業は、どうしても取引銀行の圧力に反発できない。日本M&Aセンターの場合のように、売却相手を探すことをその主要な目的にする仲介はいいとしても、原則M&Aに仲介はないということをよく認識する必要がある。いわんや、貸し金があることを背景に売り手に仲介を強いる行為は許されるべきではない。

顧客側に立つ真のプロが必要

 上記のように日本のM&A市場においては、あちこちで利益相反問題が存在する。しかし、これまで全くと言っていいほどこれらについて問題視されてこなかった。このような状況は、利益相反に敏感な米国においては考えられない。

 では、それはなぜか。それは、銀行に資金を依存している企業に対する銀行の圧力が大きな要因であるように思える。また、何の利害関係もないしっかりした独立系のM&Aアドバイザリー会社がこれまでなかったこと、M&Aのアドバイザーをしている人の数は増えたが、顧客の立場に立つ真のプロはわずかであったことに起因すると考えられる。残念ながら、M&A案件を紹介する程度の独立系の会社は存在しても、大きなM&A案件を取り仕切れるような独立系のM&Aアドバイザリー会社はなかった。しかしこの問題を放置していいものではない。M&Aにおける利益相反問題についての世の中の理解が望まれる。

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