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ビジネスコラム |
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畑村 洋太郎氏 工学院大学教授・東大名誉教授 |
日本人が誇りにしてきたモノ作りの大切さをもう一度見直すべきだろう。いま日本を取り巻く問題点の解決策の一つがそこにある。製造現場はただひたすら安く、早く、大量に作ることにのみ挑戦している。大衆受けする格好だけ新しいモノがもてはやされている。本当に生活に必要とされ、10年たっても使い続けられる信頼性のある製品が時代遅れのように扱われる。日本人のモノ作りの原点は使われる人の立場にたち、一生懸命考えて丁寧にモノを作ることにあったはずだ。ところが、流行を追いかけるのがいいという風潮が生産現場に定着し、簡単に使い捨てできるものを作るという考えが主流になってしまった。時代の流れに妥協し、モノ作りの原点を忘れている。
愚直に努力するということは、先人の仕事をそのまま真似ることではない。その仕事ぶりを丁寧に観察し、うまくなるために自分で工夫をする。こうした工夫の積み重ねが、愚直にものを作るということの中身の一つだ。教えられた通りに同じことだけをやり続けることとは訳が違う。
このことを教わったのは伊勢神宮の遷宮に従事した宮大工の大棟梁の宮間熊男さんに会って話を聞いたからだ。大棟梁にどのように技能を獲得したかと聞くと、彼は全部自分の給金で買ったという大工道具を見せてくれた。道具を使って仕事をやるときの感覚は指の先が伸びていって道具と一体となる感じで、道具の先に起きていることが指を通じて体に全部伝わってくる。鉋(かんな)だけで150本もあったが、全部自分で作り変えるそうだ。遷宮の仕事では部下にこうしてやりなさいと教えることは全くない。自分で工夫し技を磨いた職人の仕事が1300年前の建物をそのまま復元したのだ。
生産現場で技能が重要という声をよく聞く。現在、工場で行われている技能教育の多くはマニュアル通りにそれを真似ることであり、自分で工夫して身につけるものだという視点を欠いている。宮大工の大棟梁の話と根本的に違うと痛感する。テレビで町工場の優れた技能を紹介する番組をよく見るが、職人が匠の技を死にものぐるいで工夫して身につける場面は素通りしている。作業者一人一人が工夫して技を磨くということを日本人は忘れてしまったのだろうか。やってみて、観察してみて、それが頭の中にある仕事の理想のレベルと比べて、自分の行動に何が欠けているのか、間違いがないかを繰り返し、繰り返し考えながら体で覚えていく、そして最後は黙っていても体が自然に動くようになる。これが本当の仕事ということだ。
間接情報でものを言ったり、考えてはいけない。他人の考えをかすめ取り、それをあたかも自分の考えのように話す人がいる。現場を見ずに時代を語る人が話すことや書いたものはすぐにメッキがはがれる。経営者を含めてリーダー層にそういう思考の人物が増えているような気がする。私は三現主義をモットーにしている。三現とは現場、現物、現人のことだ。現場に行けばすべての事象が起きた背景を探ることができる、現物にさわれば図面や写真で見たのと違う事の本質がわかる、当事者に直接会って話を聞けばその人が何を考えているのか理解できる。そういうことを繰り返しやっていけば、本当の事が見えてくる。
1月中旬に富士川の第二東名高速道路工事現場を視察した。アーチ橋の橋脚で使用するはずだった鉄筋コンクリートは阪神大震災を機に構造設計をすべて見直したという。視察の目的は設計修正を実際に目で見ることだった。阪神大震災級の圧力がかかっても鉄筋コンクリートが大丈夫になるように、横方向からの強度を高めるため内部の鉄筋を束ね、それこそぐるぐる巻きにした。だが、これにより構造内に鉄筋がぎゅうぎゅう詰めの状態となったため、コンクリートが入りにくくなった。そこで構造物内にバイブレーターを貫通させ、振動でコンクリートが隙間なく埋まるように工夫した。現場の工夫は現地に行かなくてはわからない。感じ入ったのは阪神大震災の教訓をきちんと学んで、しゃぶり尽くしていることだ。
こうした現場で働く人たちの工夫がある限り、日本も見捨てたものではないというのが実感だ。机上の空論をぐだぐだ述べ、悲観論ばかり吹聴するのではなく、現場で起きている動きをリーダーはもっと見て、聞いて、感じて、日本再生に向けた戦略に活かすべきだろう。
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