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ビジネスコラム

知財戦略で勝つ

馬場 錬成氏 東京理科大学知財専門職大学院教授、科学ジャーナリスト

馬場 錬成氏

東京理科大学知財専門職大学院教授、科学ジャーナリスト

第118回「超大型研究助成金と知財戦略──2700億円をどう使うべきか」(2009/06/05)

 吉川氏は例えば、1つの研究テーマであっても文部科学省の日本学術振興会、JST、経済産業省の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などのように異なる思想・方針・目的を持つ機関でも助成できることが重要であると主張した。これは新しい形の産学連携の構築であり、大学、独法研究所、企業の役割を明確にしながらも企業の製品化を実現する道筋になるとしている。

 COEは同質の研究者が集まって卓越研究拠点をつくるのに対し、NOEは異なる学問領域、異なる研究段階にある異質の研究者が集まって卓越研究ネットワークをつくるものである。

特許法改正に向けた提言

 これを実効性のあるものにするために、知財戦略が必要であると主張したのが元内閣官房知財戦略推進事務局長の荒井寿光氏(東京中小企業投資育成社長)である。荒井氏は「良い知財プラットフォーム(基盤)をつくれるかどうかでイノベーションの成否が決まる」とし「知財はオープンイノベーションに参加するパスポートだ」と主張した。たとえば新型万能細胞(iPS細胞)による再生医療の分野は、国際的な協働によってイノベーションが実現するので、知財は国際的な共同研究・実用化のための手段であるとした。

 日本では医療特許を認めていない。このため米国で特許取得しなければ国際協働の一員として認められず、日本の特許制度だけに頼って戦略を進めても、国際的にはほとんどメリットが得られないことになる。2年後に予定している特許法改正では、発明の定義を広くするために特許法第2条に「発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」とあるが、荒井氏はこの中の「自然法則」を削除するように荒井氏は提案した。

 ソフトウエアやバイオテクノロジー分野では、必ずしも自然法則による発明とは限らず、この条文が現代の研究現場にそぐわなくなっていると指摘した。

 また、医療特許を認めるために特許法第29条に「産業上利用することができる発明をした者は、……その発明について特許を受けることができる」とある中から、産業の利用可能性の要件を削除するよう提案した。研究者の論文発表から出願までの猶予期間を現在の6カ月から1年に延長することも主張した。

 現在の研究現場にそぐわない条文を抱えた特許法では国際競争力で不利に立たされることを荒井氏の提言は示唆した。今後の特許法改正にも影響を与えるだろう。

 今回の補正予算のうち、科学技術関係の予算2700億円は確かに破格であるが、他の公共事業に比べればケタが小さい。例えば国土交通省の公共事業費の配分を見ると、地方負担を含む事業費ベースで2兆449億円に上る。道路関係だけで9317億円で、4月の国土開発幹線自動車道建設会議で事業着手が認められた高速道路の新規4路線と4車線化6路線のすべてに事業費が付いた。また、整備新幹線の建設費として1100億円を盛り込んでいる。

研究成果の成否を握るカギは知財戦略にある

 今回の大型科学研究予算の構想はもともと、日本経団連が提案したものを自民党が丸のみした形だ。競争の激しくなった産業界が基礎研究のテコ入れを国に求めたともいえる。ただ、従来型の研究体制や制度では効率が悪くなり、制度改革を含めた取り組みが重要になっている。

 IT(情報技術)革命によって、基礎研究が実用化に結び付くタイムラグが急速に短くなっている。それに伴い特許戦略もグローバルに展開しなければ、権利の行使も自社技術の保護も難しくなってきた。研究開発の成果を世の中で生かすためには、優れた知財戦略を構築しなければならない。

 自民党のヒアリングでは、知財に関するテーマは荒井氏の提言だけであり、研究評価や成果についてはほとんど論議しなかった。超大型助成金の成果があまりないようでは、かつての公共事業予算のばらまきと同列になってしまいかねない。そのカギを握るのは知財戦略であり、特許法改正など制度の見直しとともに重要な時期を迎えている。

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